開業実践ノウハウ
1.コンセプトの決定
少なくとも後任が決まるまでに6ヶ月かかる、というのが一般的に言われていますが、場合によっては1年間かかるかもしれません。特に責任者の退職については、その後の責任者を簡単に手当できるわけではありません。
開業の意志を決めた場合は、まず 自分の経営するクリニックがどのような医療コンセプト・診療コンセプトあるいは経営のコンセプトをもつのか、これが一番大事なことになります。
すでにどのようなエリアであろうと、先に開業しているクリニックが沢山あるわけです。その限られた市場の中の競合するクリニックと、市場のパイを奪い合う、それが医療ビジネスと言えます。
つまり、後から開業する者にとって、先に開業しているクリニック・すでに顧客を確保しているクリニック・すでに地盤・看板を立派に作り上げているクリニックに対抗する為には、どのようなコンセプトを自院に設定するのか、これが本当に将来を左右する大事な点になります。ただ単に、「開業すればどうにかなる」というx安易な考えはやめましょう。
例えば、小児科を開業の場合であっても、どのような診療体系をもつのか、1診でいくのか、2診でいくのか。感染症の対応はどう考えるのか。すぐ近くの、最も近い小児科クリニックとの差別化をどう図るのか。お母さん方の、子供の病気に対する不安、それから健康を維持していく為の対策、様々な悩みに対してどう自分のクリニックの特徴をアピールしていくのか。これはクリニックの内装設計・プラン、その中でも患者さんの動線、そしてスタッフの動線、そしてドクターの動線、そのような部分について、限られた広さの中で、いかに動線を短くして、効率的なプランを作るか。これこそ、患者さん・スタッフ・ドクターにとっても、動きが大変スムースにいくという対応になるわけです。ここにもやはり、そのコンセプトが必要になります。
様々な科目においても同様に、先生が特にターゲットとする患者さんの年齢・性別・抱えている持病、それによって必要な設備もまた変わってくるわけです。そのような部分をしっかりとコンセプトの中に織り込んでいくということ。これがまず第一です。 少なくとも開業の7ヶ月前ぐらいにはコンセプトを決めたいものです。
2.診療圏調査
次に、コンセプトを決める為に必要なものは、色々ありますが、その開業候補地のもつ「診療圏」。これは半径500m・1㎞・2㎞と、標榜する科目によって、重要なエリアは変わってきます。内科・小児科においては、半径500m、これが一番大事なエリアとなるでしょう。その次が、徒歩10分圏内。1分あたり80mの換算でいきますと、約800mの所までのラインが、一番患者さんを期待できる優先エリアになります。
科目によって違うと申し上げましたが、同じく、整形外科にいたっては1次診療圏で1㎞・ターゲット診療圏は2㎞ぐらいまで広げて考えてみましょう。そのような形で診療圏調査を徹底的に行うことが必要です。この期間も「コンセプトの決定」と同じく、やはり開業の7ヶ月前には遅くとも行う必要があります。
3.物件探し
4.事業計画
5.資金計画
資金計画については、かかる費用に対し、どのような形で資金を賄っていくのか。まずは借入がありますが、詳細は後程お話しいたします。資金計画は大きく分けて借入金・自己資金の2つがあります。親族からの補助・支援があるケースもあるでしょうが、その場合も借入金と捉えるべきでしょう。事業計画・資金計画は開業の6ヶ月前には行いたいと思います。
6.金融機関
次に借入金についてですが、借入金の種類も色々あります。まずは銀行借入、都市銀行だけではなく、地方銀行・信用金庫等でも積極的に貸してくれる金融機関があります。公的資金としては、日本政策金融公庫があります。さらに医師信用組合の融資、あるいはリース会社の融資。金利はそれぞれの条件によって変わりますし、担保の有無も変わります。そして融資金額の上限についてもそれぞれあります。
7.リース会社
リース会社については、レントゲン・CT・MRIあるいは電子カルテ。様々な医療機器をリースすることができます。殆どの開業するドクターは、様々なリースを利用する例が多いのが現実です。
8.設計
内装工事の時期は、内装設計が終わってから保健所や厚生局の届出・審査・検査等で1ヶ月~1ヶ月半ほど期間を要します。従って、 開業日の2ヶ月前くらいまでに内装工事が終わるのが理想的です。内装工事の工事期間は、約1ヶ月です。整形外科など、60坪~70坪の内装工事の場合は、さらに半月ほど長くかかります。約1ヶ月半を見たほうが良いでしょう。
内装工事の会社が内装設計も行う場合もありますし、設計と内装工事を分ける場合もあります。どちらかと言うと、設計・内装工事を両方行う工事会社の方が設計と工事の連携ミスを防げるので、良いかと思います。
9.内装工事
見積もりが終わり、業者の選定が終わりましたら、工事契約の締結です。それからほぼ半月後には工事に着工することができます。工事期間は先程申し上げた通り、1ヶ月~1ヶ月半を見込めば十分です。開業前の1ヶ月間の届出期間、1ヶ月間の工事期間、1ヶ月間の業者選定・見積もりという期間がかかります。 プランが決めて工事が完了するまで約3ヶ月を見ましょう。プランも十分に練りたいということから考えれば、最初に内装設計工事会社と打合せを始めてから、打合せ~プラン決定まで2ヶ月、そしてさらに見積り・工事・届出含めて約3ヶ月、トータルで約5ヶ月を必要とします。期間が短くなって、打合せや見積りなどがドタバタとすることがないよう、ある程度の余裕をもって設計の打合せをスタートしましょう。
10.警備会社
セキュリティ関係も設計と並行して進めるべきですが、まずは設計プランを確定して見積りを出す段階から警備会社に相談を開始するので十分です。この場合、SECOM・ALSOKなど、警備会社も色々ありますので先生の希望・ニーズに合う会社を選択しましょう。セキュリティ関係につきましては、様々な設備、そして保守、警備のシステムについてもそれぞれの会社の特徴がありますので、実際上、警備会社の見積もりと仕様内容について説明を受けながら選択していけば良いと思います。
11.医療機器
医療機器については、定価あるいは希望小売価格的な金額があり、現実の納品価格については、その定価というべき金額の半分あるいは3分の1程度の金額で納品を行っているのが現状です。これについては、医療機器メーカーあるいは医療機器の販売会社から下見積りをとって、全体の資金計画あるいはリース計画に併せた医療機器の選定を行っていきましょう。
医療機器の機種の選定の時期は、開業の約4ヶ月前からは少なくとも選定を始めたいものです。発注してから納品までは1ヶ月以上かかる品物もありますので、発注時期については十分メーカーあるいは販売会社に確認をして下さい。
12.備品・医療材料等
13.廃棄物業者
また、クリニックが開業した後には、様々なゴミがでます。医療ゴミについては、医療廃棄物ということで専門業者と契約して日々の回収をしてもらうことが必要です。医療ゴミ以外の様々なゴミについては、診療所が事業所扱いになりますので、産廃ゴミ扱いとなり、一般家庭と同じように市の指定したゴミ置き場に出すことはできません。これもまた専門の産廃ゴミ回収業者と契約して取りに来てもらう形にします。いずれも開業の2ヶ月前から業者選定に入って、それぞれ決定し開業の前月には契約の方も行って下さい。
14.保健所申請・検査
15.その他の申請
保健所の検査が終われば、社会保険の為に、社会保険医療機関としての申請が必要となります。これは厚生局の方で行います。こちらの方も、審査が無事に通れば、開業してから健康保険の適用を受けられます。生活保護所帯等の、公費負担の申請についても行っておきましょう。あとは、医院のスタッフの労災指定申請も必ず行って下さい。開業2ヶ月前に工事が終わり、開業前月の初旬頃に保健所の認可が下りることになっています。
16.スタッフ採用・研修
開業前に在籍していた勤務先のスタッフを、開業と同時に引き抜いてくるということもあるようですが、この場合に注意すべきなのは前の職場との軋轢を残さないように、円満にスタッフを引き抜けるかどうかを心掛けることが大事です。スタッフを採用したら、大きな総合病院とは異なりクリニックはより患者さんとの距離感が大事ですので、改めて患者さんへの対応・電話対応・受付対応、そして看護師としての患者さんへの対応など、もう一度徹底的に研修をロールプレイング形式で繰り返し行いましょう。 研修については、コンサルティング会社やクリニックスタッフの研修を専門とする会社に外注することも可能です。先生が言いにくいことをずばりスタッフに指導しながら行ってくれますので、非常に効果的です。ただし、予算がかかりますので、それは必要な経費として考えられるようにしましょう。
17.ユニフォーム
次に、受付事務・看護師・ドクター含めて、機能的かつ清潔感に溢れたセンスのあるユニフォームを採用すべきです。ユニフォームについては、有名デザイナーが作ったものから、ユニフォーム専門業者が作ったものまで、様々なタイプ・価格のユニフォームがあります。色々資料を取り寄せて、スタッフも含め皆でクリニックの為の、皆が気に入るユニフォームを選ぶのも良いことだと思います。
18.保険の加入
スタッフの為にも労働保険・失業保険等の加入を考えましょう。これに関しては、社会保険労務士に依頼して、どのような形が一番自分のクリニックに良いのか。経営上も上手い形になるのか。開業前に事前に相談して準備しておきましょう。ここでスタッフの採用の時期について、改めて申し上げましょう。開業の1ヶ月前には、スタッフの研修を徹底的に行う期間が必要ですので、開業の2ヶ月前までにスタッフを決定しておきたいものです。その為には、少なくとも開業の3ヶ月前には募集を開始すべきです。余裕をもって、開業の4ヶ月前には募集広告に関してリクルートなどの募集広告会社と打合せを行いましょう。
19.内覧会の実施・チラシの作成
まず、開業月の前月末に、内覧会を行いますが、その為には内覧会のお知らせのチラシを作成します。内覧会のチラシに載せる情報チラシ作成業者の選定につきましては、余裕を見て、内覧会実施の3ヶ月前にはチラシのデザインを決定しましょう。その為に、 4ヶ月前にはチラシの内容について検討・デザインを決めていきましょう。
20.ロゴの作成
次にクリニックのロゴを決めましょう。クリニックのロゴは、そのクリニックの標榜科目そしてクリニックのコンセプトなどを反映するものにできれば一番良いでしょう。専門のデザイナーに頼むと結構費用がかかりますが、ホームページ作成を外注する会社に併せてロゴ作成も依頼すればかなりお安くできるはずです。また、自分たちでロゴのデザインを考えるのも一つの楽しみでありますので、パワーポイント・イラストレーターなどに長けた先生あるいはスタッフがいれば、皆で考えながら形を作っていくのも楽しいものです。チームとしての連帯感も醸成されるかもしれません。ロゴについては、物事全てのデザイン(クリニックのデザイン・チラシのデザイン・リーフレットのデザイン・ドアに貼るデザイン・外の看板に貼るデザイン等)において大事な物ですので、なるべく先行して決めることが必要です。これについては、開業の少なくとも4ヶ月前までには決定しましょう。
21.クリニックカードの作成
同じく、クリニックの名刺というべきクリニックカード。これについては患者さんが気軽に持っていけるように、あるいは外部の保育所・保育園・病院・高齢者施設など訪問するときに置いておけるように、名刺大のものを作りましょう。時期的には3ヶ月~4ヶ月前のロゴが決まった後にはすぐに作成できるように、事前の相談を早めにやっておきます。
22.ホームページの作成
次にホームページ。ホームページはなるべく早く、開業の4ヶ月~5ヶ月前には立ち上げるべきです。問い合わせがしやすく、親しみが湧き、信頼性を感じさせる良いホームページ。普通の物品広告や企業広告と異なり、クリニックのホームページは患者さんの情報収集の大事な場となり、ドクターにとっては自分の診療方針・医療方針を患者さんに事前に分かっていただける情報発信の大事なステージと考えるべきです。いかに分かり易く・魅力的に・安心感を持っていただくか、その為にはやや専門的な情報を掲載すべきであり、その掲載内容も常々新しい情報を表示していけるよう努力してください。
ホームページ制作会社に頼むと安くて30万円、高くて100万円を超えるような製作費が必要な場合が多いようです。お金をかければ良いというものではありません。なるべくリーズナブルな金額でやってくれる、そして期限までにきっちり仕上げてくれるところを選びましょう。先輩や同期など、すでに開業しているドクターのホームページを見て自分が気に入ったHP製作会社を紹介してもらうのも一つの方法です。また、ホームページは毎月のランニング費用がかかりますので、その費用をなるべく取らないところあるいは安いところ、または自分のクリニックのスタッフがメンテナンスできるような形でのホームページ作成をしてくれる製作会社を探すのが良いでしょう。